翻訳家・著述家で、マインドフルネス瞑想を実践する島田啓介さんによる詩の連載です。

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十一月の朝
今日は詩を書かず
じゃがいもを切る
今日は詩を書かず
土手を歩く
畳の上で体をのばし折り曲げて
お腹で呼吸する
今日は詩を書かずペンを持たない
一生大陸をひとりで歩きつづけ
雪の中で眠った女の人のことを考える
記憶や未来へのイメージを
胸にしみこませる
受け取ったものだけを 収め
失ったものを手放すままにする
今日は詩を書かず
心が詠うままにする
——島田啓介詩集『物語りの島』(私家版、2000年)より
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雨
これは雨
大気の奥からおちてくる
冷たい
掌にあたる
あそこも 冷たいのかな
紫色にふかい
水が生まれるところ
雨
ぼくは風の中で
それが旅した永い沈黙を
からだに受けている
——島田啓介詩集『物語りの島』(私家版、2000年)より
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「十一月の朝」について
この詩の中で「一生大陸を歩き続け……」は、“ピースピルグリム”というひとりの物持たぬ女性信仰者のことである。彼女は誠に、魂の声だけに従う怖れのない人だった。言葉に逃げそうになる自分を、二十年前の自分がからだへ還そうとしている。
「雨」について
これも“からだ”のことばだ。詩はぼくにとって、ことばによるからへのラブコールなのかもしれない。水と旅は、梅雨時のテーマである。これから梅雨に入る。蛍と蛙が、水の沈黙を引き寄せようとしている。
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プロフィール
しまだ・けいすけ 1958年生まれ。翻訳家・著述家。マインドフルネス瞑想を講演・研修・授業を通じて伝えている。精神保健福祉士・カウンセラーでもあり、身心の癒しを体験できるワークショップハウス「ゆとり家」を主宰。20代初めに詩を書きはじめ、それは生きることの欠かせない一部となった。弾き語りやポエトリーリーディングを通じて、自作を発表していた時期もある。今回のシリーズを連載をきっかけに新作を準備中。 https://www.yutoriya.net/
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