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詩の連載 つながりあう存在へ #3(島田啓介)



翻訳家・著述家で、マインドフルネス瞑想を実践する島田啓介さんによる詩の連載です。





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AM5:15



想い出の灯りがひとつひとつ消えていき ぼくらは虚空にとり残される そして目隠しされた衛星となって これから先 暗やみの中を彷徨い続けるのだ あたたかな湯気のたつ 賑わいのあるなつかしい部屋は 今はもうない 扉を閉めたとたん 邪悪な何かが急速にぼくを吸引する 想い出のぬくもりはその寒気をもう 温めてはくれない ぼくらは向かっていく——たどりつく先のない 「目的」ではない何かへ ぼくらは寒気のまっただ中を切り裂いて進む 虚空の戦士となる 松明として掲げ持つのは——「詩」 詩で時間の胎内を切り裂き 進んでいくのだ 闇の産道を抜け 向かうところのない その世界は 意識の中で分解してしまった 形のない未来


いまだ一度も祝福されたことのなかった 未来を——なつかしむことなく—— いま一度抱きしめようと ぼくらは向かう 詩 この松明で ぼくらは新たな灯りをともす 水遠の燭台に たどり着いたとき ぼくらはそこをはじめて ”未来"と呼ぶ そこへと

——島田啓介詩集『2000年後』(私家版、2000年)より



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はじめて会ったあなたに


今日はじめて会ったあなたに 両うでいっぱいの共感を 花束にして差しだしたい あなたは 触れることのできない 扉のはるか奥にいる 名前や歳よりもたしかなものを あなたとやりとりすることは まだできない わたしは手助けもできず あなたが変わることを そして変わらないことを 見ているだけ にしても はじめて会ったあなたは わたしにわたしのうでの中の 花束を思いださせた だから この花束はあなたにあげたい わたしにとってはじめてたしかと感じた わたし自身を

——島田啓介詩集『2000年後』(私家版、2000年)より


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「AM5:15」について


閉じこもり期が長引く現在の緊張を描いたかのような一編で、自分でも驚いた。読み返すと気恥ずかしいくらいストレートな文章だが、選者の目を借りて世界をもう一度見る気持ちで読んでみた。引き返せないことの戦慄と祝福とがリアルである。「吸引」される感じは、夢の中でしばしば味わった体感だ。改めて思うのは、未来とは意志の別名であるということだ。



「はじめて会ったあなたに」について


あなたはわたしの写し絵だけれど、決して触れられないところに居る。だからその花束は、今は仮想された祭壇に捧げられる。決して手渡すときは訪れないかもしれない。けれど本当に大切なのは、手渡すための何かをわたしが持っているということなのだ、きっと。



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プロフィール


しまだ・けいすけ 1958年生まれ。翻訳家・著述家。マインドフルネス瞑想を講演・研修・授業を通じて伝えている。精神保健福祉士・カウンセラーでもあり、身心の癒しを体験できるワークショップハウス「ゆとり家」を主宰。20代初めに詩を書きはじめ、それは生きることの欠かせない一部となった。弾き語りやポエトリーリーディングを通じて、自作を発表していた時期もある。今回のシリーズを連載をきっかけに新作を準備中。 https://www.yutoriya.net/



#つながりあう存在へ #島田啓介

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