(ま)
2018年9月、母親とふたりで韓国ソウルを2泊3日で旅行した(ま)。いうまでもありませんが(ま)というのは仮名で、BTSやTWICEなんかのK-POPが好きな、いまどきの女子中学生(14歳)です。アイドルグループを通じてお隣の国・韓国のカルチャーに興味を持ち、はじめてソウルという異国都市を体験した(ま)。そこで彼女が何を見て、何を感じたのか。今回は父親であり、編集人である私が聞き手になって、韓国旅行の思い出をインタビューしました。(アサノタカオ)
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——韓国ソウルの2日目のこと、もう一度詳しく聞こうかな。
午前中から、BTSのファンが行く名所をまわった。新沙駅から安国(アングク)駅まで行って、アートセンターでBTSの展示「オ・ヌル」をみた。メンバーが自分で撮影した写真やサインや等身大のパネル、昔のポスターやメガネなんかも展示してあって。作曲の機械とかミュージックビデオのセットも再現されていて、みるところはかなりたくさんあったよ。
駅から少し歩いたんだけど、安国のエリアは、京都の路地を入ったところみたいな伝統的な街並みの観光地だった。
——お昼はそこで食べたの?
うん、街を歩いてBBQチキン(韓国の人気チェーン店)に入って(ま)とママとで2人ぶんを頼んだんだけど、量が多くて食べきれないぐらい。おいしかったけど、味つけが少し辛かった。
——辛いっていうのは、ヤンニョム(コチュヂャンだれの薬味)チキンとかでトウガラシを使っているから?
いや、そうじゃなくて(ま)たちが食べたのはプレーンのフライドチキンなんだけど、コショウがきいているのかな、辛味があった。食べきれない分は持ち帰りにして、地下鉄に乗ってつぎは梨泰院(イテウォン)駅にあるBT21カフェに行った。
——そのBT21カフェには何があったの?
まあ、BTSのキャラクターグッズがいろいろあるんだ。そこでソーダを飲んで買い物をして、それからホテルにいったん戻った。荷物を置いて、休憩して夕方の5時ごろまた出かけた。ソウルの蚕室(チャムシル)オリンピックスタジアムでBTSのライブをやっているから、会場に入れなくても行ってみよう、ってママが言いだして。
——元気だね。
地下鉄に乗ってスタジアムに行ったら、まわりにはやっぱりチケットが取れなくて会場に入れなかったファンが大勢いた。みんな韓国人の女の子たちだったと思う。ライブの様子はもちろん見えないんだけど(すきまからちょっとスクリーンは見えた)、BTSの歌とかMCで話している声は聞こえてくるんだよね。それで、会場の外にいるファンも掛け声をかけるんだ。歌によって掛け声は決まっているから。
夜の7時から9時ぐらいまでそこにいたかな、ライブの最後まで残ったよ。
——生の歌声が聴けただけでもよかったね。
うん、今までBTSのことは、CDで音楽を聴いたりネットの動画を見るだけだったんだけど、スタジアムに行ったときはなんて言うんだろう、目の前の壁がなくなったというか、距離みたいなのがなくなってメンバーがものすごく身近な存在になったような感じがした。ライブ会場の外でも興奮したし、うれしかった。韓国に来てよかったって思った。
——目の前の壁がなくなった、というのはよい話だと思います。なにごとも自分の目で見て、自分の耳で聞いて体験することは大事だよね。
ライブが終わったら、会場から大量のお客さんが出てくる前に急いで地下鉄に乗ってホテルへ直行。それで、部屋で辛いチキンの残りを食べた。
——SNSで、日本の友だちに「BTSのライブに行った!」って自慢したんでしょう。
そうだよ。みんな、「いいな〜!」って。
——さて、1日ソウルを歩いてみて、おもしろかったのはどんなことですか?
いろんな街並みが、近くでとなりあっているところかな。BBQチキンのあるエリアはカフェとかがたくさんあって日本の東京とかとあまり変わらないと思うし、でもそのとなりはいかにも韓国の下町のごちゃごちゃした感じで。それで少し行くと、こんどはお店がぜんぜんないきれいなオフィス街に変わったりして。ソウルには、最先端のおしゃれな感じとレトロな感じが両方あって、そういうのを見るのがおもしろかった。坂が多い町で道がでこぼこしているから、歩きつかれたけど。
それから、地下鉄はやっぱり日本とはちがう雰囲気があって、改札でレバーを押して入るやつ、ああいうのは初めての体験だったから。
——改札機の回転式のレバーね、ブラジルや台湾の地下鉄もそうだったな。で、3日目は朝早くホテルを出て、空港に行ったんだよね。
そう、帰りはリムジンバスで。空港でパンを食べて飛行機に乗った。
——韓国旅行は楽しかったですか?
おう、まあ、よかったよ。
——そうですか。旅行に連れて行ってくれたお母さんに感謝してください。
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——このインタビューをしているのは11月だけど、BTSのメンバーが過去にナチス親衛隊のマークを連想させる帽子をかぶっていたり、原爆の写真がプリントしてあるTシャツを着たりしている画像がでてきて問題になっていることは(ま)も知っているよね。このことが原因で、日本のテレビ番組への出演がキャンセルになった。
歴史の問題、つまり過去におこった出来事を、いまを生きる人がどうやって受け止めるのかという問題ね。これはとても大事なことで、いろんな人がいろんなことを話して議論していることの何が正しくて何がそうでないのか自分なりに考えてほしいんだけど、今回はBTSをめぐるいわゆるネット上の「炎上」について話したいと思います。
うん。
——この問題、どう思った?
BTSのメンバーがそういう帽子をかぶったりTシャツを着たりしたのは、悪い。でもそれで「反日」とか戦争の被害者を侮辱しているって一方的なレッテルを貼って、攻撃するのもよくない。事務所は間違いを認めて本人たちも謝罪をしているし、音楽を聴けばわかるけど人を差別することを主張するようなグループじゃないよ。
でも、ファンもよくないんだ。ファンはかれらを守りたいから、SNSでそういう衣装を着た事実はないとか、自分たちにつごうのよい話をしている人もいて。
——そうなんだ、「反日」と騒ぐネトウヨ的な人もBTSの熱心なファンも、「フェイク」やフェイクに近い情報を流して踊らされていると。情報の受け手として、こういうネットの「炎上」に巻き込まれないにはどうすればよいのかな。
うーん、当事者ではない人やマスコミが、政治的な考えや力で情報を切り取って、つごうよく編集するのが問題。だから、自分で本当のことを知ろうとすることが大事。
——そうだよね。でもさ、誰もが当事者になれるわけではないし、問題が起こった現場に行けるわけでもないでしょう? たとえばそれが戦争とか大きな災害とかの現場だと、特に。当事者ではない大勢の人びとの代わりに現場に行って取材をして、そこで起こっていることを代わりに伝える報道やメディアの役割もあると思うんだよね。
そうなんだけど、やっぱり誰がその話をしているかをしっかりみないといけないんじゃない? できるだけ当事者の話を聞いたほうがいいし、そうでなければ当事者から直接話を聞いた人が発信している情報を選ぶようにする。そうすれば現場を知らずに発言している人の書いた文章のなかに、これはちがうな、っていう部分をみつけて自分で直すことができるから。
——はい、なるほど。この問題については、いまここでふたりで話して答えがみつかることでもないし、みんなで考え続けないといけないんだろうね。
(ま)は、極端な意見のどっちにもつかないよ。
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——それでは、このインタビューの特別編として、最後に韓国の作家チョン・セランの小説『アンダー、サンダー、テンダー』(吉川凪訳、クオン)の感想をすこし聞かせてもらいます。最近、読み終わったみたいだけど、どうだった?
(注=チョン・セランは1984年、韓国・ソウル生まれの作家。本書の日本語版を出版したクオンによる紹介文は以下のとおり。「映画美術に携わる「私」は、友人や家族の動画を撮りためている。未熟で無防備だった十代。恋し、挫折し、傷つきながら、進む方向を模索していた日々。「私」の初恋の記憶は、ある事件によって色彩を失っている。高校時代を共にした個性豊かな男女六人は、互いに離れたり、支え合いながら三十代を迎えた。一つのファイルにまとめた動画は、その記憶をたどるものであり、「私」に次のステップを踏み出すきっかけを与えた」)
あれは作者が自分の過去の体験を書いたの?
——どうだろう、体験がベースになっているかもしれないけど、基本的には作家が創作したフィクションだと思うよ。
高校の同級生どうしの会話がものすごくリアリティがあったから、実話かと思った。
——そうなんだ。
主人公がガイコツのTシャツがものすごく好きなところとか、同級生の顔や髪型やファッションの特徴を観察するところにも、いまの自分に近いリアリティがあったし。高校時代に登場人物たちがリンゴ畑とかがある郊外の街に住んでおんぼろバスに乗って学校に通ったりニュータウンに遊びに行ったり、流行のアイドルグループや好きな音楽や映画を追いかけているところも共感でたし、おもしろいと思った。
——なるほど、「リアリティがある」「共感できる」っていうところを小説のおもしろさだと思うんだね。
主人公がデジタルカメラで動画を撮って、自分の日常生活やともだちが高校時代の思い出話しをするのを記録してストーリーが進んでいくでしょ。そういう小説のアイデアもおもしろいと思ったよ。
——はい、ありがとうございます。そうだ、話が戻るけど(ま)はBTSのだれのファンなの?
キム・テヒョン、まあメンバーみんな好きだけどね。(了)
(前編を読む)
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