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詩のリレー連載 食べることは歌うこと #8(早川ユミ) 

最終更新: 2019年10月19日


「食」にかかわるさまざまな仕事をする人に、「食べること」をテーマに詩やエッセイを寄せてもらいます。



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わたしには、土がひつよう


  土さえあれば

  わたしは畑を耕し

  たねを土のなかにまく

  やがて雨がきて

  やがて風がきて

  やがて月がきて

  わたしを生きるため

  わたしのからだをつくるため

  わたしのこころをいきいきさせるために

  たべものをつくることができる

  たべものは、ただのえいようじゃなく

  たべものは、生命エネルギーのかたまり

  たべものは、いのちあるもの

  川には川のひととなりがあるように

  土には土のひととなりがある

  だからわたしにはわたしの土がひつよう

  わたしの川がひつようなように



わたしには、たねがひつよう


  たねは、わたしの土を感じ

  たねは、わたしの手を感じ

  たねは、わたしの足音を感じ

  たねは、わたしのひととなりを感じ

  たねは、村びとを感じ

  たねは、季節を感じ

  たねは、雨風を感じ

  たねは、じぶんじしんで生きることを記憶する

  たねは、つぎのたねへと

  たねは、つぎのつぎのたねへと

  たねは、つぎのつぎのつぎのたねへと

  たねは、いのちをつなぎ

  たねは、そうして、生きている この地球のうえで

  わたしがたねをたべることで

  わたしもたねの記憶をたべることで

  わたしもたねのように記憶をつなげ

  わたしじしんもたねの記憶をつなげ

  いのちのいちぶになる

  だからわたしには、たねがひつよう

  わたしに土がひつようなように



わたしには、布がひつよう


  布がある

  布のかけらがある

  布をつくるために

  糸を紡ぎ

  糸を染め

  糸を繰り

  糸を織る

  布が手にふれる

  布のすなおさが

  布のやわらかさが

  布のしなやかさが

  布のちからづよさが

  わたしをつくる

  わたしがわたしらしさをつくるには

  わたしが布のかけらをつなぎ

  ひとのからだをつつむふくをつくる

  それはまるで土があるように

  それはまるで土のしごと

  それはまるでたねがあるように

  それはまるでたねのしごと

  それはまるで草木があるように

  それはまるで草木のようになしごと

  だからわたしには、布がひつよう

  わたしに土とたねがひつようなように



わたしには、ことばがひつよう


  わたしは生まれ

  わたしはいちにち いちにちを生きている

  わたしがわたしらしくあるために

  わたしには、ことばがひつよう

  ことばがやってきて

  わたしのなかへやってきて

  わたしのこころのなかのたねになった

  ことばは、芽をだし

  ことばは、根っこをのばし

  ことばは、くるくるとまきつき

  ことばは、花を咲かせ

  ことばは、実をみのらせる

  ことばは、やがてたねになる

  ことばは、だれかのたねにとんでいく

  ことばは、ことばがひつようなひとのからだのなかへ

  ことばは、ことばをひつようとするひとのこころのなかへ

  ことばは、抗うもの

  ことばは、かんがえるもの

  ことばは、つながるためのもの

  ことばは、わかわかしきもの

  ことばは、まるで草木のように

  ことばは、うつくしきもの

  わたしがわたしらしくあるために

  やっとわたしがわたしをとりもどすため

  ことばがひつよう

  わたしに土とたねと布のかけらがひつようなように

  まるでつちとたねと布のかけらがあるように

  ことばが、そこにあったから

  わたしがわたしになった

  もうわたしがわたしを感じるものは、土とたねとことば

  もう土とたねと布のかけらとことばがあるから  

  もうわたしはじぶんの手と足でたっている

  わたしのしごとから、わたしがなくなり

  わたしを感じるものは、太陽とひとつになること

  わたしを感じるものは宇宙銀河の空気とひとつになること

  いつか土に還るために

  いつかたねに還るために

  いつか布のかけらに還るために

  いつかことばの生まれた銀河の宇宙に還るために

  わたしのいちにち、いちにちも

  すべてが宇宙銀河の循環のわのなかにあること

  だから

  土がひつよう

  たねがひつよう

  布のかけらがひつよう

  ことばがひつよう





  宇宙銀河へ旅だったモンコンへ





生きるために、ひつようなもの


「生きるための音楽」はタイ語で、プレーン プア チウィトとよばれていて、いまもとても愛されています。わかいころ、出会ったタイのカラワン楽団が、生きるための歌をうたうのは、軍事政権下という不自由があったから。いまの日本は、いっけん自由にみえるけれど、じつは不自由さがいっぱい。


わたしがわたしらしく生きるためにひつようなものが、なかなかわからないし、手にできない。なにがほんとうか、なにがひつようかを。わたしじしんをつくるために、ずいぶん模索してきました。かつてカラワン楽団と訪ねたパクチョンの詩人の農場からおおきな影響をうけて、わたしもじぶんでちいさな自給自足をはじめました。やっとこの年になり、じぶんでできることと感じていることがひとつになったころ、訃報が。カラワン楽団の友人モンコンがとつぜん昨年なくなったのだ。


わたしも生きるためにひつようなものを語りついでいくひつようを感じ、モンコンを想って、詩をつづってみました。





プロフィール


早川ユミ(はやかわ・ゆみ) 布作家。1957年生まれ、高知県在住。著書に『種まきノート』『野生のおくりもの』(以上、アノニマスタジオ)、『からだのーと』(自然食通信社)など。詩人・山尾三省の『火を焚きなさい』『新版 野の道』(以上、野草社)の解説を執筆している。

Website: http://www.une-une.com/



#食べることは歌うこと #早川ユミ