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離陸と着陸のあいだで 旅本読書記録 #1(神田桂一)

最終更新: 2019年10月19日



内堀弘『ボン書店の幻——モダニズム出版社の光と影』



「旅の本」といっても、その定義は曖昧で、紀行文だけに絞ればいいというものでもない。まるで旅をしているかのような、グルーヴ感のあるような本、というのもあるし、旅の醍醐味でもある、出会いや別れ、価値観の刷新、新しい発見などを味わうことができる本も、「旅の本」と呼んでいいと思う。


また、それが書かれた時代に行ってしまったような気にさせる本も、立派な「旅の本」といえるかもしれない。本ではないが、学生時代、古本屋で昔の雑誌を大量に買い込んで読み漁りながら、その雑誌の記事や広告を見て、タイムトリップしたような気になっていたことを思い出す。





そんなことを考えながら、旅、旅……と、この連載で紹介する最初の本を選んでいたときにふと思い出したのが、『ボン書店の幻——モダニズム出版社の光と影』(ちくま文庫、2008年)だった。


1930年代、ボン書店という小さな出版社で、北園克衛など、前衛的なモダニズム詩を刊行していた名もなき青年、鳥羽茂。著者で古本屋の店主でもある内堀弘氏が、彼の出版人生を追うというノンフィクションである。この本で、読者は、日本のモダニズムの時代のレスプリ・ヌウボオ(新しい精神)を体感できるのだが、著者が最もいいたかったことは、この一節にあらわれている。



「なぜ書物というものは著者だけの遺産としてしか残されないのだろう。幻の出版社といえば聞こえはいいが、実は本を作った人間のことなどこの国の『文学史』は端から覚えていないのではないか」



旅に出て人に出会うと、名もなき人物それぞれに語られない物語があるということが浮き彫りにされる瞬間がある。『ボン書店の幻』という一冊の本は、旅をするようにして、ある出版人の語られない物語を丁寧に拾っていく。


そういう意味で、これはまさしく、僕にとっては「旅の本」なのだ。



プロフィール


神田桂一(かんだ・けいいち) ライター、編集者。1978年、大阪生まれ。東京・高円寺在住。著書に『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(菊池良との共著、宝島社)。ウェブメディア『DANRO』で「青春発墓場行き。」を連載中。現在、初の単著を執筆中です。


#離陸と着陸のあいだで #神田桂一