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  • 執筆者の写真Saudade Books

インタビューとエッセイ『「知らない」からはじまる』「はじめに」

更新日:2022年1月6日



「知らない」からはじまる旅と読書

アサノタカオ 本書の共著者である(ま)は、K - POPが好きな10代の高校生の仮名です。ちなみにもうひとり共同著者であるぼくの娘です。BTSからNCT(ネオ・カルチャー・テクノロジー)までアイドルグループを通じてお隣の国・韓国のカルチャーに興味を持ち、韓国語の勉強をしたり韓国文学の翻訳をときどき読んだりしています。最近は韓国コスメにはまっているようです。 2018年の夏から2021年の夏にかけて、娘の父親でありサウダージ・ブックスの編集人であり韓国文学ファンであるぼくが聞き手になり、(ま)が母親とふたりで韓国ソウルへ旅行したこと、そして韓国の小説を読んだ感想をインタビューし、ブログで公開しました。家庭内同人誌とも言える本書は、これらのインタビュー、そして(ま)とぼくが書いた韓国文学に関するエッセイから構成されています。 チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』の日本語版(斎藤真理子訳、筑摩書房)が2018年に刊行され、異例のベストセラーになった前後から「韓国文学ブーム」ということが世間でささやかれるようになり、各地の書店で韓国の小説やエッセイの訳書がいろいろ並ぶようになりました。ファンとしては、飛びあがるほどうれしいことです。 K - POPの流行はいまや世界的な現象で、日本でも韓国の音楽のみならず、ドラマや映画の人気は年を追うごとに高まっています(ちなみに2021年の〝韓ドラ〞ヒット作は『イカゲーム』でした)。こうした同時代の風潮に乗っかりつつ、韓国カルチャーに共感するふたりのアマチュアの少しミーハーで少しきまじめな証言。それを記録したのが本書です。 インタビューをおこなった3年のあいだに、新型コロナウイルスの感染流行が発生し、世界中の国境が封鎖され、「自粛」の名の下に人びとは外出を控えるようになりました。社会も人間も鬱々と内向きになる中で、こういうときこそ境界を越えて外につながりをつけることが重要だと直感したぼくは、家庭内でみなが共通して関心を抱く韓国についておしゃべりをつづけました。いつかパンデミックが終息したら旅行しよう、ソウルの屋台でトッポギとかを食べ歩きしよう、済州島の海でクジラを見よう、と鼓舞しながら。 (ま)にはじめてインタビューをしたのは、彼女がまだ中学生の頃でした。子どもなので、韓国についての学問的・歴史的な知識はほとんどありません。親であるぼく自身も韓国文学の専門家というわけではまったくありません。ぼくらは、知っていることより知らないことのほうが多い単なる愛好者。だから本書のインタビューからもエッセイからも有益な教訓を読み取ることはできないと思いますし、それらのテキストは、旅と読書を通じて「いまここ」で出会った何かが自分自身に問うものについて、親子それぞれが個人的に思いついたことをとりあえずことばにしてみたものにすぎません。 けれども、「知らない」を大切にしたいと思いました。まだ不勉強でわからないからこそ、見える色、聞こえる声があるのではないだろうか、と。日本に安住するものが韓国について語るとき、歴史を知らないということは無責任な態度であるようにも思います。でも知識はなくとも、「好き!」と思える対象をリスペクトする謙虚さはつねに忘れないようにしたいとは考えていますし、父親として娘もそうあってほしいと願っています。 そして「知らない」は自由で楽しくて、期待でわくわくする心の状態。異国を旅行し、海外文学を読み、そうすることで未知の世界を発見する喜びは、いつも知らないものたちの冒険心からはじまるはずです。 . インタビューとエッセイ 「知らない」からはじまる ——10代の娘に聞く韓国文学のこと 著者 (ま)&アサノタカオ

発行 サウダージ・ブックス 装丁・組版 納谷衣美 編集 A. N. 校正 瀬尾裕明 韓国語チェック 中野志穂子 印刷製本 株式会社イニュニック 仕様 46判変形(幅122mm*縦188mm)/116ページ/並製 定価 本体1800円+税 *2022年1月下旬より、サウダージ・ブックスのオンライン・ショップおよび直接取引店で販売します。

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