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ぼくらの詩(4)

最終更新: 4月25日


アサノタカオ



詩人・山尾三省との出会い




屋久島の宮之浦港で船を降りて、まず目に飛び込んできたのが雲だった。見上げれば緑の山があり、その背後から大きな雲が覆いかぶさっている。じっと眺めていると、巨大な生き物のように刻一刻と姿を変えていく。息をのんだ。


車を借りて、僕らは島をめぐった。目指すは一湊の白川山。うねる山道をゆっくり進み、集落で車を降りた。白川のせせらぎに耳をすませながら道を歩くと、公民館にたどり着く。「このわきをあがると、ありますから」と案内され、さらに土の道をのぼる。しばらくすると、「ああ、あった」と同行者が声をあげた。


詩人・山尾三省のお墓。花が添えてある。8月28日、僕らは詩人の18回目の命日に島にやってきた。思いを込めて手を合わせ、のぼって来た道を振り返ると、眼下に広がる林のすき間からかすかに海の青が見える。びゅう、と心地よい風が吹き抜けていった。


はじめて山尾三省の本に出会ったのは十代の終わり、もう20年以上前のことだ。恩師からすすめられたのが、詩集『びろう葉帽子の下で』だった。以来、屋久島に移り住んだ詩人が、山、川、海、森羅万象とともにある生活を深く見つめることから生まれたことばを、何回も読み返してきた。


詩人の多くの作品に僕が感じるのは「淋しさ」だ。好きな詩に「歌のまこと」という作品がある。


 ひとりの男が

 まことの歌を胸に探り

 この世の究極の山へ登り入った

 山は深く

 雨が降り

 実は

 淋しい登山であった


淋しさの感情に蓋をするのでなく、淋しさとともに、生きるという現実を歩きつづけることの大切さを、山尾三省は詩やエッセイでくり返し語っている。自分自身、長い暮らしの中で目の前が真っ暗になるような別れや喪失を何度か経験してきたが、孤独に打ちひしがれそうになるたび、詩人のことばを思い出して救われている。


2018年は、山尾三省生誕80年という節目の年だ。不思議な縁がつながり、亡き詩人の本を数多く出版してきた野草社で、僕は仕事をすることになった。


そして野草社では、『火を焚きなさい——山尾三省の詩のことば』という本を刊行することが決まり、その編集を担当している。山尾三省の詩集と著作から、四十八篇の詩と四篇のエッセイを選んで一冊にまとめた入門書だ。この夏、詩人のゆかりの地である屋久島を訪ねたのは、まもなく出版されるこの本について、霊前に報告するためだった。


ヤマオサンセイという名前にまだなじみのない若い人たちへ、バトンを渡すように詩人のいう「まことの歌」を届けたい。僕にとって詩集『びろう葉帽子の下で』がそうであったように、この本が、若い人たちの長い暮らしを支える一冊になることを願っている。





編集部註

本稿は『第13回オリオン三星賞 星座——屋久島の子どもたちの詩』より転載しました。



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