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  • 執筆者の写真Saudade Books

インタビュー 中学生韓国旅行日記(前編)

更新日:2020年10月3日


(ま)



2018年9月、母親とふたりで韓国ソウルを2泊3日で旅行した(ま)。いうまでもありませんが(ま)というのは仮名で、BTSやTWICEなんかのK-POPが好きな、いまどきの女子中学生(14歳)です。アイドルグループを通じてお隣の国・韓国のカルチャーに興味を持ち、はじめてソウルという異国都市を体験した(ま)。そこで彼女が何を見て、何を感じたのか。今回は父親であり、編集人である私が聞き手になって、韓国旅行の思い出をインタビューしました。(アサノタカオ)





——韓国ははじめてだよね。


 いや、2回目。


——あ、済州島に行ったことがあるのか。2008年の4月、でもあのときはまだ3歳だったから、あまり記憶にないんじゃない?


 うん、コンビニでおもちゃ付きのお菓子を買ってもらったことぐらいかな……。


——へえ、そんなことよく覚えてるねえ。済州島のことは、あれは大切な家族旅行だったからいつか振り返って(ま)に話したいと思うけど、今回はソウルへの旅の話を聞きます。よろしくお願いします。

 

 まあ、いいよ。


——まず家から成田空港に行って、お昼の1時ぐらいに飛行機に乗ったんだよね。


 うん、緊張した。


——どうして?


 だって、旅行の前の日の夜に「事件」の話をするから。


——ああ、1983年の大韓航空機撃墜事件と1987年の大韓航空機爆破事件のことね……。いや大韓航空に乗ると聞いたから、どうせネットでいろいろ検索するだろうし、昔はそういう悲しい事件があったけど、今は大丈夫だよって安心させようと思って……。ごめんごめん。しかも、あの日は台風が日本列島を通過して天候不良で、飛行機が運行するかどうかもわからない状況だったから、余計に緊張しちゃったかもね。さて、空から見た朝鮮半島の印象はどうでしたか?


 うーん、日本は山じゃない平野のところがだいたい町でゴミゴミしているけど、韓国は田舎の平地がずいぶんスカスカして、すきまがあったと思う。家や建物がつまっていない感じ。何もないところには、本当に何もない。


(父親注=「日本は〜」に関して、(ま)は香川県と兵庫県で暮らしてきたので、高松空港や神戸空港、大阪空港の離着陸時の風景を語っていると思います)


——へえ、そうなんだ。で、緊張したまま3時すぎに金浦空港に着いたわけだ。

 

 うん。機内食もあんまり食べられなくて。入国審査の人にパスポートを見せたとき、何を言われているかわからなかったし。それでママとスーツケースを受け取って空港からタクシーに乗って、「ヨギカジュセヨ(ここに行ってください)」って地図を見せて韓国語で話してみた。


——それが今回の旅行ではじめて話した韓国語?


 そう。そしたら運転手のおじさんが「韓国は何回目ですか?」って日本語で声をかけてくれた。それですこし安心した。


——よかったね。


 空港のまわりは「郊外」という感じなんだけど、漢江っていう大きな川の橋を渡ってソウルの中心部に入ると、急に大都会になってびっくりした。それでタクシーの窓から見える看板の文字が当然ぜんぶハングルだから、韓国に来たなあ、って。まわりは高層ビルばっかり、建設工事もどんどんしていて、道路の幅もものすごく広い。町が活気ある感じ。でも、東京みたいにビルがびっちり並んでいるんじゃなくて、ビルとビルのあいだにすきまがあいている、と思った。


——さっきの空から見た平地の話もそうだけど、韓国では「すきま」が気になったみたいだね。それはさておき、タクシーで新沙(シンサ)駅近くのDホテルに着いた。ホテルはどうでしたか?


 うん、まあ。よかったんじゃない。


——そんな感想ですか、はい。それで、部屋に荷物を置いて町に遊びに行ったの?


 うん、もう夕方遅かったけど、まずBIGHITエンターテイメントっていうBTS の事務所を歩いて見に行って。芸能人の事務所って感じはぜんぜんなくて、見た目はふつうのオフィスビル。1階には、その日は営業していなかったけど、電気屋さんがあったりして。


 コンビニでT-moneyカードっていう地下鉄で使える交通カードを買って、OLIVE YOUNGってコスメのお店に寄って、BT21(BTSのコラボ商品)のパックなんかを買って。ここでも、レジで「ポジャンへジュセヨ(持ち帰り用の袋に入れてください)」って韓国語で言ってみた。韓国ではコンビニとかで買い物をしても、お客さんから頼まないとレジ袋に入れてくれないんだよ、しかも有料。


 それからまた20分ぐらい歩いて、BTSのメンバーがまだアイドルの練習生時代によくご飯を食べていたっていう「バンタン食堂」に行った(バンタン=BTS 防弾少年団の愛称)。普通の韓国食堂なんだけど、メンバーの若い時の写真とかサインが壁にぺたぺた貼ってあって、ファンにとっては聖地なんだよね。「うわー、足が長い!」とかみんな騒いでいるんだ。






 ママとふたりでサムギョプサルを頼んで食べて、おいしかったよ。キムチやごぼうのきんぴらみたいな小鉢もいっぱい出てきて。食堂のおばさんは働き者で、肉を焼いてくれたり、食べ方を教えてくれたり、何度も水を持ってきてくれたり。あと、「チョングッチャン」っていう納豆の味噌汁みたいなのもおいしかった。隣のテーブルにBTSファンの中国人大学生6人のグループがいて、ひとりのお姉さんが「日本人ですか」って話しかけてくれた。日本語を勉強していて、日本に来たこともあるみたい。


——どんなことを話したの?


 (ま)たちはチケットを取れなかったんだけどさ、次の日にBTSのライブがソウルの蚕室(チャムシル)オリンピックスタジアムであったんだよね。お姉さんたちはそのために韓国に来ていて、ライブの予定とか、BTSのコラボ商品のコカコーラを売っている場所とか、新曲が出たことをいろいろ教えてくれた。(ま)のほうからは、中国のどこから来たんですか? とか、あしたライブに行くんだ、いいなって。そのお姉さんはBTSの日本のライブにも行きたいけど、チケットが取れるかな、って話をしていた。


——ここで父親らしく、すこしまじめなことを聞きます。たしか(ま)が小学生の時、学校に中国人の中国語の先生が短期間やってきたことがあったと思うけど、今回のソウルではわりと年齢が近くて、共通の趣味を持つ若い中国人とはじめてしゃべったわけだよね。中国の人にどういう印象を持ちましたか?


 うーん、日本だとテレビ番組とかで、中国の人っていうと「爆買いする観光旅行客」とかそういうイメージで伝えるでしょ。(ま)もそんなふうに思っていたけど、でも、そういうのはなくなった。「バンタン食堂」で会った中国人のお姉さんは、とてもフレンドリーだったし、親切だったし。日本のネトウヨとかが中国の人のことを悪く言ったりしていても、たぶん実際に会って話したことがないんだろうし、本当のことを知らないんだろうなってことはある。


——はい。それは、大変よい気づきをしたと思います。じゃあ、ソウルの話にもどろうか。


 えーと、ご飯を食べてまた町を散歩して、最後にコンビニに寄って、「バナナキック」ってスナック菓子とBTSのコーラを買って帰って、その日はつかれたからスマホ見て寝た。


——こうして、韓国ソウル旅行の1日目が終わったというわけだね。おつかれさまでした。





——さて、2日目はどうしたの?


 朝からBTSの写真とかサインを展示をしているギャラリーに行くことにした。うーん、朝ごはんはホテルで食べたのかな、覚えてない。新沙駅から地下鉄に乗って、安国(アングク)駅まで。ソウルの地下鉄は路線がたくさんあって、のりかえがけっこう複雑なんだよ。駅のプラットホームが日本より広々としていて、キオスクみたいな売店があるんだけど、店の前にさらに棚が出ていて、そこにおまんじゅうみたいな伝統的な感じの袋に入ったお菓子がずらっと並んでいる。そういうのがめずらしい、と思った。それに、電車が入ってくると大きな音楽が流れるんだよ、元気がいい感じの。


——地下鉄でソウルの若者のすがたは見た? ファッションとか。


 うん、着こなしがおしゃれだったと思う。日本人の服装ってシャツと上着みたいなワンパターンな組み合わせが多いけど、ソウルの若者は何種類かの服を重ね着していろいろ組み合わせている感じ。男の人は背が高いように見えた。女の子はオルチャン(美少女)メイクばっかし。


——なるほど、流行は重ね着とオルチャンメイクか。


 旅行中に一度、地下鉄の薬水(ヤクス)駅で乗り換えをしたんだけど、駅のなかにあったちいさい本屋さんで、頼まれていたハン・ガンの小説を買ったんだよ。


(注=韓江。作家。1970年、韓国・光州生まれ。94年、短編小説「赤い碇」でデビュー。『菜食主義者』で李箱文学賞受賞。同作でアジア人作家として初めて英国ブッカー国際賞を受賞。邦訳作品に『菜食主義者』『少年が来る』など)


——そうなんだ。ありがとうございます。


 「韓国の作家ハン・ガンの小説、ありますか?」って聞いても、最初は通じなくて。でも、店員さんがいい人ですこし日本語が分かる人だからやっと通じて、探して棚の前に連れていてくれたの。で、2冊買ってきた。


——へえ、ハン・ガンの小説って、駅ナカの書店にもあるぐらい韓国ではポピュラーなんだね。おみやげにもらったのは、一冊は長編小説『ギリシャ語の時間』。最近日本語に翻訳された本(斎藤真理子訳、晶文社)を読んで、この作品ですっかり彼女のファンになった。それからもう一冊がまだ邦訳の出ていない『白い』という本、ハングルの文章は読めないけど、ページを眺めていると詩集みたいだね。美しい本だ、大切にします。

 でもさ、店員さんが「あなたが探している本は、ここにありますよ」って教えてくれたとして、それがほんとうにハン・ガンの小説だって、どうしてわかったの? 


 (ま)はいちおうハングルを読むことだけはできるんだよ。意味はわからなくても。本の表紙に「ハン・ガン小説」って書いてあるから間違いないと思った。







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